「ところで、領地経営ってなーに?」
おーっと、驚くべき基本的な質問がフィルから来た。
「領地を経営することなんだけど。うんとね、俺は貴族なわけだけど、貴族は国から‘領地’って土地を与えられてるんだ。そこをうまいこと豊かにすることが領地経営の目的。領地経営がへったくそだと、いい鉱山があったり実り豊かな土地があっても、そこで暮らす領民をうまいこと養えないから税金が集められないでしょ?逆に領地経営が上手だと、多少土地に問題があっても、新しい農耕機械を使ってみるとかそういう工夫をして実り豊かにする、結果的に税金も集まる。
貴族は領主って名前で領民から税金を集めるんだ。だから、領地経営が上手な方がいいでしょ?貴族も国にお金を払わないといけないんだ。領地経営が下手くそだったら、破産しちゃうよ。
わかった?」
「うーん、領地経営が上手な方がみんなが喜ぶってことがわかった」
「うん、それでいいよ」
フィルは賢いのかそうでないのか判断が難しいですね。
「シェイクは領地経営が上手になりたいの?」
「そりゃあね。領民の生活も豊かになるし、みんなが笑顔で生活している方が俺は嬉しい」
「うん、フィルも頑張ってシェイクの役に立てるようになるー」
うーん、俺がフィルの役に立たなきゃって時が来るかもなんだけどなぁ。
「ほっほっほ、お若いですな。ではこのバースがスパルタで領地経営についてとその方法を叩き込みますぞ?」
―――そして10年が経った
フィルは16才、俺は28才。
バースは……年齢不詳。俺に最近は世継ぎと言う。その前に婚約だろう?
「シェイク様、婚約をしてはどうですか?」
「フィルまで言うのか?バースの手先か?」
「鶏の手羽先は美味しいですよね?」
どうしよう?話が脱線し過ぎている……。
「なぁ、フィル。領地から上がった報告書のここの数字おかしくねーか?」
「そうですね。これまでなかったのに、現れましたね」
「バースはどう思う?」
「ほっほっほ、素直に大告白ですかね。自分の浮気を‘交際費’とするとはなかなか……」
三人も帳簿を見ているとは思わないだろうなぁ。ちょっと、不憫だ。
フィルの出自については母上からすでに聞いている。
現段階でも、王子は一人で次期王太子と言われている。こんな時にフィルを王宮になど連れてはいけない。
―――というのに、父上が王宮でフィル自慢をしたらしい。で、王がフィルに興味を持ったから、会ってみたいと言っているらしい。面倒な。俺自慢をすればいいのに……。
「あなたはどうして、王宮でフィル自慢など?フィルの出自については話してありますよね?箝口令付きで」
母上、怖いです。
「い、いや。フィルがあまりにも可愛くてな」
「それなら息子自慢でもしてください!」
全くその通りだ。そうすれば、よい縁談の一つもやってくるだろう。
「フィル、国王陛下がフィルに会いたいそうだ」
うちに拒否権は……ない。あるはずなどない!
「そういうわけで、行って来い。あくまでも、うちハノーバー家の代表だ」
「シェイク。俺は陛下と一度向き合って話してみる」「それは重要だな。母上には話してあるのか?」「……まだ話してない……」 とりあえず、相談しましょう。「フィル、随分大胆になったわね?なんか心境の変化でも?」「流石です。そうですね。色々と……」 二人でコソコソ話している……。ズルい、俺も混ぜろよ。 そして王宮に行った。今回は一人で向かった。……というか俺が置いていかれた。母上と行った。保護者付きだな。うん。「よくぞ来てくれた。ということは王位継承の件でだな?」「はい。恐れながら王位継承権は放棄したいと思います。私はこの身をハノーバー伯爵家に捧げる所存でございます」「うーむ、決意は固そうだな。どうしようか?国を潰すわけにもいかない……」「恐れながら!王位継承権を持っている貴族は他にもいらっしゃるでしょう?その方にお任せするのが良いかと思います」 流石シェイクの母上!ナイスアシスト!一緒に来てもらってよかった。俺一人だったらなし崩し的に王位継承権を認めてそのまま王宮に留められそうなところだよ。「話は以上ですので、御前失礼いたします」「―――で?フィルは王位継承権を放棄してきたんだな?」「しつこいなぁ。しつこい男は嫌われるよ?ハミさんは大丈夫かな?」「ハミは関係ないだろ!」 突然の発言に俺は動揺してしまった。「あ、シェイクの母上には助けられた。流石はシェイクの母上だよね~って感じだった」 なんかわかってしまう自分が悲しいがそうなんだろう。「シェイクは心置きなくハミさんと婚約してください。俺はシェイクの右腕として生活してくよ。いい?」 うーん、可愛い顔でおねだりチックな事をされるとなんともなぁ。「わかったよ。フィルはレーカと婚約するんだぞ!……こっちの方が難しいと思うんだけど?」「レーカ?何で?」「いやぁ、だってレーカはフィルの事大好きだからさぁ」「俺は何とも思ってないんだけど?」 おおぅ。レーカ物凄い撃沈。海の底まで沈んでいく様が想像できた。「俺は俺が「この娘だ!」って子と婚約したい」「おお、頑張れよ」 レーカ、ご愁傷様。その後の俺らは…… 俺、シェイクはハミと結婚しました。平民?それがどうした!俺はどうぶつの森の次期伯爵だ!……とハミの家の人の了承を得ました。 夫婦仲は良好。2男2女を育てています。母上がハッ
「ハミにも紹介する。俺の弟分、フィルだ。非常に優秀な男だ」 あんまりフィルをほめちぎるとハミがフィルに惚れかねないからな。拾ったことはまだ内緒。「フィルです。主にこの伯爵家の領地経営に携わったりしてます」「で、こっちがレーカ。伯爵家の令嬢らしい。ってハミの方が知ってるか」「レーカがいたのか、いつから?」「えーと、だいたいハミが来たくらい?うふふっ、フィルの事もよく見ていてよ!」「レーカはフィルが好きだからなぁ」「私は頭の回転が速い殿方が好みなの。フィルは容姿もいいし。サイコーよ」「ふっ、そうだろう?自慢の弟だからな」「そっかぁ、レーカ様はフィル様の事が好きなんですね」「もう、ハミは私の事を呼び捨てで呼んでって言ってるのにー!」「赤面しながら言ってもなぁ?ところでフィルはレーカをどう思ってるんだ?」「え、流れ弾?えーと、俺は領地経営の事を考えてるから、何とも思ってない。かな?」「レーカ撃沈!多分フィルはうちの森のリスの方が好きだと思うぞ」「……私はリス以下……」「あ、ハミはうちにいつでも来ていいぞ。門番に伝えとく!出入り可能だ。害をなしたら、ほら……うちの番犬のようなフィルが地の果てまで追っていく」「フィルに追ってほしい……」「動機が不純だ。そんな理由で犯罪を犯すな!その場合、普通に王宮の兵士に追ってもらう」「そんなぁ……」 ふんっ、フィルをそんな理由で貸し出せるかよ。そもそも追っていかせる気などない! 自慢じゃないが、我が家のセキュリティは結構できてる。捕るのは捕れるかもしれないけど、庭の動物が騒ぐ。 ハミは言う。「ここいいですね。動物いっぱいで。うちの農地みたい!」「そういえば、ハミの家は何を作っているの?」「いろいろ作ってますよ。なので、うちの方でもたくさんの動物がいるんです。たまには害獣になるんですけどね……」「「害獣?」」 俺もフィルもわからなかった。フィルは知ってて知らないフリかもだけど。「えーっと、作った農作物を食べちゃうんですよ。うちで飼ってるわけじゃないですよ。野生の動物です。で、味をしめて代々うちの農地に来るようになるんです。うちでも対策するんですけどね」「どんな?」「え?農地を鉄条網で囲うとか?」 けっこうハードな農地にちょっと引いてしまった。農業も難しいんだなぁ。領民に感謝。「ここ
今日はハミがうちに来る。 俺は特に何も心配していないが……フィルの様子がおかしい。 フィルはなんだかぼーっと中空を見てる。「なんか曇ってる?今日は洗濯物を外に干せないね」 ……思いっきり晴れてるよ……大丈夫かな?「フィル、どうしたんだ?普段よりずーっとぼーっとしてなんかキレがない」「えー?俺は変わらないよ?」「「変わらない」という発言をする時点でちょっといつもと違うんだよ。どうしたんだ?母上に相談しようか?」「うわー!!それは勘弁してくれ。勘弁してください!」 うーん、母上は強いなぁ。「わかった。言わないよ。あ、ハミが来るけど一緒にレーカも来ると思う。二人で交流するといいんじゃない?ただし!婚約もしないで手を出したりしない事!」「シェイクの方が奥手じゃんかー」「コラ、ほっぺた膨らませてもダメだ。もうお前だって可愛いって年じゃないんだからなっ!」 とはいえ、ほっぺたを膨らましたフィルは可愛い。やっぱ可愛い弟だよなぁ。ハミがうちに来るようになって久しい。近所(と言っても、実際には離れてるけど……)の貴族様は『あの家の子は遂に人間を拾うようになったのか』と噂をしているようだ。俺は思う。失礼な(?)俺はフィルも拾った。フィルは立派な人間だ!「ごきげんよう。伯爵様」「あ、面倒だからシェイクでいいよ。俺もハミって呼ぶし」「では、シェイク様と……」 うーむ、身分の壁というものは分厚いようだ。「立派なお庭。特に土が素晴らしい!……あっ、こんな話は伯爵様に言う話ではないですね」「いや、面白い話だしー。あと、俺はまだ家ついでないから‘伯爵様’じゃないよ。次期だけど。……で、シェイクと呼んでって言ってるのに」「あ、申し訳ありません。ここ、いろんな動物がいて楽しいですね。庭にリスが……」「ふえっ?あぁ、戻って来たのか?以前に俺が拾ったんだけど、番見つけて帰ってきた?ここは療養所であって、‘家’ではないんだけど……」「家族と思ってもいいんじゃないですか?」「そうか?そうなのか?……なんか嬉しいな」********** シェイクが楽しそうだ。リスが戻ってきて嬉しいのか。俺も家族みたいだし。家族だろ?むしろ。 俺は嫉妬してるのか? こんな草葉の陰からのぞき見して。
「任せて!農家の娘でいい子がいるのよ!」「なぁ、その子の家、婿取りしたかったりするんじゃないか?」レーカは目を逸らす。図星か。わかりやすいな。素直と言えば、素直だ。「この国で伯爵家に来てくれるのか?平民が伯爵家ってきついんじゃないか?まぁうちは社交界にほぼ行かないけど?大方、悪口言われるから、行かなくなった。くだらないだろ?」「そうね、お茶会とかでしょ?他の話はないの?って感じよね。今の政治の話とか?」「政治の話ができる女性ってそんないないだろ?レーカが稀有な存在なんだよ」「えー?新しい産業技術の話は?」「それはまともにできる男性もなかなかいない」「何ができるの?」 全くだ。「そうだな。ほぼ女性が集まれば誰がマウントを取るか?とか?男性は如何に優秀な女性と親しくなるか?を社交でやってるな。実に生産性がない!いや、子供はできるかもしれないが、非嫡子だな」「シェイクー、そんな素直に言わなくても……。レーカの提案の女性に会ってみては?」「うーん、そうだなぁ。他にいないなら。というかいないんだろ?」 俺はレーカ提案の令嬢(農家の平民を令嬢と呼ぶのか?)との見合いに臨んだ。 顔を合わせてすぐにレーカはフィルと「あとは若い者に任せて……」とどっかに行った。二人の方がどう考えても俺よりも若いだろ!! 「俺の名前はシェイク。一応伯爵だけど、俺が次から次へと動物を拾ってきて我が家は貴族の間で‘どうぶつの森’って呼ばれてる。そんなわけで、社交界で動物臭いとか言われるから、最低限王家主催とかのパーティー以外は出席しない」「えーと、私はレーカに紹介されたハミって言います。完全に農家の娘です。動物臭くないですか?」「え?全然?動物臭いって何?俺にはパーティーに出た時のご令嬢達の香水臭さの方が気持ち悪い」「どんな動物がいるの?」「うーん、どんなの拾ったかなぁ?リスはこないだ元気になってうちから森に帰ったし……」「まぁ、庭に木があるの?」「あぁ、拾ったリスが快適に過ごせるようになぁ。でもリスがいなくなっちゃった。全体は把握してない。拾ったくせに世話は全部使用人任せでいつもそのことを母上に怒られる」「ふふふっ、ぜひ庭を見てみたいわ」「興味があればどうぞ」**********「フィル、話が盛りあがってるみたいよ」「でも、色恋沙汰じゃないね」
「コノレイジョウ、ヒロッタ」「フィル……シェイクの真似してもダメよ。ってその令嬢……隣国の王家の子ね」「えっ……何でわかったの?言ってないのに」「あぁ、私はこのシェイクの母親やってるのよー。この子、何でもって動物ね?拾ってくるから、その事情とかわかるようになっちゃったのよー」「私は拾った動物と同じレベル……」「まぁ、そうだな」「コラ、シェイク!」母上に怒られた。「あぁ、このレーカは俺よりもフィルの方が気に入っている」「だってー正直、フィルの方が頭がいいじゃない?」図星だけど、心が痛い……。「俺は……シェイクが婚約した後じゃないと、婚約したくない」公じゃないけど、王家同士の結婚になるんだけどなぁ。「そうだ!私の友人をシェイクに紹介しましょうか?そうしないと私はフィルと結婚できないみたいだし。貴方も、適齢期でしょうし」‘適齢期’は結構前から言われてる。「俺の査定は厳しいぞ。見た目もそうだが、心根だな。ここの動物がダメとかいうのはお断りだ。動物も愛せないようじゃNG」「それは厳しいですね。見た目とかはパスできそうですけど、ここの動物はどうかな?そもそも令嬢ってのは動物に触れあうことがないですからね。最高で馬車の馬でしょうか?」「だろ?俺が提示した条件を備えた令嬢ならOK」ふっ、かなり無理があるだろう。どうだ、参ったか。俺はこの家をフィルに継がせるのがひそかな目標だ。「レーカの紹介ってことは隣国の令嬢か?」「私は王族から平民まで幅広く友人がいるわ!」 自慢げだが、俺に拾われた時点で何か問題があるのだろう。王族の中で問題か?面倒だな。「で、レーカの問題って何だ?レーカは非嫡子とか?」「失礼ね!嫡子よ!王位継承権だって持ってるんだから」 俺は怒られた。しかも、母上に睨まれた。母上曰く、「シェイクはストレートでデリカシーがない」だ。「「で、シェイクに合う友人は思い浮かぶ?」」
んがっ、落ちてるー。令嬢が。そこら辺に。「あのー。名のある令嬢とお見受けするのですが」だって、いい服着てるし。盗賊とかに会わなくて良かったね。「ね?隣国に行けば会えたでしょ?」「フィル!今はそういう問題じゃないだろ?」令嬢はパクパク口を開くのみだ。「あ、もしかして言葉が発せられない?筆談で。大丈夫、僕らは3か国はマスターしてるから」「なんだー。こっちの言葉も大丈夫なんだ、安心」俺は、令嬢が無事で安心だが。この令嬢……奔放といえば良いが、口悪くないか?「俺らは隣国から来た。俺の母上に尻を叩かれるような形で。ちょっと稼いで来いと」「うーん、今の為替レートでそれはナイわね」この令嬢、頭が切れるようだ。「こっちから出稼ぎに行くのはわかるけど、そっちからってのはナイナイ」令嬢が嘲笑を浮かべて、顔を扇ぐような仕草をするし。「おい、フィルはわかってたのか?」「えー、だから令嬢との出会いって言ったんだよー」俺だけか……「あ、そういえば。俺はシェイク。隣国で伯爵家の嫡男をしてる」「それって職業?」痛いところをつくなぁ。「で、こっちがフィル。俺の弟みたいなもんだ」「弟の方が頭がいいみたいね。で、私も伯爵家の者よ」……令嬢だろ?訳ありか?「えーと、名前は?」「私の名前……うーん、レーカとでも呼んでちょうだい」(この令嬢、多分王家の令嬢だろうけどシェノクには黙っておこう)